ツクール作品レビュー(詳細)

擬似コンテスト投稿作品の詳細レビューです。
ワンダークライシス 〜常世の月〜
クリア時プレイ時間約12時間30分、パーティメンバーのレベルは全員24。


ストーリーは退廃的かつ王道な面もあり、適度に意表を突く展開を見せてくれたりします。
演出も丁寧で、イコンパーツが主人公にスーッと入っていくところや
横たわりながら応答する表現はかなり秀逸です。
魔王配下の面々はファーストインプレッションから既にインパクト抜群で、
配下のデスとガゼルとか素敵です。
あとゲイザー、お前ボクっ娘だったのかよ!



ところがこのゲーム、折れたという報告が後を絶ちません。
やって心が折れてそれでも突き進んだ結果わかったんですが、
「作者は内容を頭に入れているが、プレイヤーはそうでない」という認識の差異や、
本来プレイヤーを楽しませようとしたであろう装備品の設定、
そして経験値設定のマズさが恐ろしいコンビネーションを発揮し、
何も知らないプレイヤーの心を的確に追い詰め、叩き折る作品と化してしまっています。



まず、ゲーム開始直後。
回復手段がない状態でマップを突き進むことを要求されます。
蜂はこちらに10前後のダメージを与えてきて、こちらの最大HPは21。2発食らえばほぼお陀仏です。
逃げることは容易なので突破は難しくないのですが、最弱の敵相手に逃げ回るのは屈辱以外の何者でもありません。
更に困ったことが。
こいつ、低確率でありながら2回攻撃してきます。
そう、一番最初にして問答無用でぶっ殺される可能性が存在するのです。不意打ちからの2回攻撃。
ここ、1つ目の伏線です。



次に、シゼルが加わった直後。
先に進むと、蜂に混じって蜘蛛が出てきます。こいつが論外の代物で、
攻撃はめっちゃ痛いわ、眠らせてくるわ、クリティカルしてくるわと恐ろしい相手です。
蜂は物理攻撃で簡単に落ちますが、蜘蛛は主人公のMPのほとんどを使って繰り出す単体攻撃でも
1撃で落ちないことが多々あります。
困ったことにこいつが出てくるパターンでは3体セットでありまして、
大抵は問答無用に全滅させられます。
ぶっちゃけ防御UPのアクセサリを装備しなければ安心して突破できません。
で、苦労してこいつを倒したとしても、蜘蛛の経験値、資金は蜂の2倍程度です。
この事実を目の当たりにした瞬間、プレイヤーは間違いなく蜘蛛との戦闘を放棄することを選択し、
一つ前のマップに戻って蜂狩りに勤しみます。
ここ、2つ目の伏線です。



ところで、このゲーム、アクセサリの効果が強力で、
上位互換が存在しない代わりにべらぼうに高いという特性を持っており、
これが終始重要な役割を担うのですが、これがまたマズい。
防御UPアクセサリの値段は40000。おおよそ蜂を133匹ほど狩らなければ買えません。
これもまたうんざりさせるのに貢献しています。



そうして蜘蛛から逃げつつもダンジョンの奥まで潜ると、初めてのボス戦を迎えます。
ボスは2体組ですが、このうちガゼルが大問題。
なんと、300ダメージの魔法をぶちかましてくるのです。
こちらのHPはせいぜい200。防御しなければ即死です。
オマケにボスたちはこちらより素早いときている。


この光景を目の当たりにした瞬間、プレイヤーの心はガラガラと崩壊し、プレイを放棄します。


このボスを倒した後知ったのですが、実はこれ、相方のデスを眠らせた場合にカウンターとして行う行動なんですね。
しかし、ここで前述の伏線という名の爆弾が発動します。
さんざんここまで鬼畜バランスを味わわされたプレイヤーは、
このゲームのボスは平然と即死級の攻撃を放ってくる、と判断するのです。


なんたって、催眠は対蜘蛛の要で、生き残るのに必須な魔法です。外したら泣きます。
ボス相手なんだから、片方を眠らせないとすり潰される、そう考えない方が不自然です。
私悟りましたよ。プレイヤーに伝えない状態異常カウンターはマズいという事を。



一方ガゼルを延々と眠らせ続ければ、デスはずっと眠りの回復に動くのですが
だからといえば楽か? といわれると、このボスたち、両方ともHP回復手段を持っておりまして、
デスはピンチになればこちらの全力攻撃分のダメージを瞬時に回復してきますし、
ガゼルは瞑想を使ってきます。
この瞑想および防御もまたいい仕事をしておりまして、ガゼルを残した場合、
パターンを知らなければどう戦うかというと、
「もしかしたら時々即死魔法を撃ってくるかも。それも2連発で」と警戒して防御バグを駆使しながら攻撃するんです。
そこをあざ笑うかのように瞑想と防御。折り重なる奇跡の終着点です。
はっきり言ってパターンを知らないと拷問以上の何かです。実際気が狂いそうになりました。



ここを抜けると、全体攻撃を持った仲間(当然攻撃の要)が加わり、まともな経験値を持った敵が現れるため、
楽ではないまでも劇的にマシになります。貴重なオアシスです。
この作品、単体攻撃と全体攻撃で消費MPの基準が変わらず、
むしろ単体攻撃持ちより全体攻撃持ちのほうが最大MPが圧倒的に高く燃費がいいため、
単体攻撃の残念っぷりが際立っています。
シゼルは職業がアタッカーなのに攻撃面だけが突出してヘボいという表記詐欺です。むしろアシストです。
アスカ? とりあえずMP補給でもしていろ。



で、それ以降平和になると思ったのですが、ところがどっこい。
更なる高火力キャラのメル加入で更に楽になると思ったら
それを見据えても硬すぎるダークプリンスご一行様が凶悪すぎて泣きました。
人の心を折るには、上げて落とすというやり方が非常に有効という話が頭をよぎりました。



また、ここでもアクセサリのシステムが心を折るのに貢献します。
アクセサリを売っている場所がバラけているという特性と
世界を移動してから町に着くまで最低1つはダンジョンを経由するという構造が負の方向で噛み合っており、
別の世界の町のアクセサリを購入しに行く場合、
広いダンジョンを最低2つ往復しなければなりません。
ダークプリンス一行相手に蹴散らされて仕方なくHPアップ等を調達する時なんか、泣きそうになりました。



システムとバランスのコンビで出鼻を挫き、一時の安らぎ(ただし決して快適ではない)を与えた上でもう
一度システムとバランスで連携して蹴落とすという複合技を見せる本作は
ハートブレイクのプロフェッショナルです。



というか蜘蛛のときでも散々思い知らされたのですが、
経験値と獲得資金の調整が全くなっていません。
耐久力を5倍に上げたら経験値も5倍以上に上げるべきだと思うのですが。
お金に至っては数が正義なので、前のエリアの敵の群れのほうが落とす始末。
おまけにダークプリンス一行、かなり素早さが高く逃げれないことが多いので嫌でも不毛な戦いに身を投じなければなりません。
これを罰ゲームと言います。逃走確率を上げる為の素早さUPアイテムの用意を忘れずに。
雪の世界以降で出てくるザコを相手する価値はほぼ皆無です。狼と豚だけがぼくらの友達。



叩いてばかりですが、メルのアクセサリ選びは本気で評価してます。
後半はメルの火力と少し育てて覚える全体攻撃力低下が洒落にならないレベルで重要になっており、
本人の鈍足紙装甲を補うか、消費MP半減をつけて活動時間を延ばすか、
この時期に蔓延する沈黙による無力化を防止するかで悩むのがかなり楽しいです。
作者の意図が実を結んだと言えなくもないですが、
これでダークプリンスとか倒してもあまり報われないのでなんだかなぁ。



さて、雪の世界以外のザコが固くて強くて不味くスルー推奨となる狂いっぷりですが、
こいつらに比べればラスボスはべらぼうに硬くて早くてウザいだけのガラクタです。
攻撃力がラストダンジョンに出てくる女帝はおろか、ダークプリンスご一行様より低いんですよね。
ラストダンジョンに出てくるどの敵よりも弱いって、なにこのグラディウス



何度も心を折られながらクリアしても主人公たちのその後がまったく描写されず語りだけでエンドロールなんで、
疲労だけが残る結果となりました。ぐふっ。



この作品、おそらくアンリミテッドサガみたいな、攻略本が説明書を地で行くゲームです。
最初に鍵を開けるパスが記されたアイテムが手に入るので、
そこで敵の行動パターンや編成を確認することが必須です。
そこでどのようにダメージを与えていくか考えるのは割と楽しかったりするので。
見返りは無いんですが。



ストーリーはよくできているし演出も丁寧なのに、
どうしてその労力の1割でもバランスに向けなかったのか、それが残念でなりません。
どうすれば300分でクリアできるんだろう。チートなしで。


追記

データベースで事前に敵の行動を頭に入れているならば、面白い敵はいくらかいます。
特に悪名高い蜘蛛は、HPが1/4で毒技を連発してくるようになるのですが、
防御UPアイテムを買う前は特技で倒し損ねても毒以上に厄介な攻撃や催眠をしなくなるので放置するという戦法が有効なのですが、防御UPアイテムを買った後の場合だと固定ダメージである毒の方が痛いのでキッチリ倒すことが大事だったりします。パーティの状況によって戦術を変えなければならない敵の好例。